
遺産分割協議書とは?作成の目的と効力
遺産分割協議書とは、遺産分割協議において、法定相続人全員が合意した遺産の分け方や分割割合をまとめた書面のことです。相続人全員の署名と実印の押印が必要となります。
遺産分割協議書を作成する主な目的は、遺産分割協議で決定した具体的相続分について、法定相続人全員が合意していることを第三者(金融機関、法務局、税務署など)に証明するためです。
また、この書類は法的に有効なものであり、作成することで、「言った・言わない」といった将来的な相続トラブルが発生するリスクを減らす効果もあります。
遺産分割協議書の作成は法的に義務付けられているわけではありませんが、遺言書がない場合など、相続手続きを進める上で提出を求められるケースがほとんどであるため、作成が必要な場合が多いです。
遺産分割協議書の主な提出先5箇所と期限
遺産分割協議書の提出先は、必要な各種相続手続きに応じて主に5つあります。
| 手続きの内容 | 主な提出先 | 期限の目安 |
| 不動産の相続登記 (名義変更) | 法務局 | 知った日から3年以内(2024年4月1日以降義務化) |
| 相続税の申告 | 税務署 | 相続開始の翌日から10ヶ月以内 |
| 預貯金の解約・名義変更 | 銀行等の金融機関 | 期限なし(速やかに推奨) |
| 株式・投資信託の名義変更 | 証券会社または株式発行会社 | 期限なし(速やかに推奨) |
| 自動車の名義変更 | 運輸支局 | 期限なし(速やかに推奨) |
1. 法務局:不動産の相続登記(期限:3年以内)
不動産の所有者が亡くなった場合、その名義を相続人に変更する手続き(相続登記)を行う必要があります。
- 提出の要否: 遺産分割協議の結果、法定相続分と異なる割合で登記する場合は、遺産分割協議書の提出が必ず必要です。法定相続分通りに相続登記する場合は不要です。
- 期限: 法改正により、2024年(令和6年)4月1日以降は、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をすることが義務化されました。この義務に違反した場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
2. 税務署:相続税の申告(期限:10ヶ月以内)
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を超える場合は、相続税の申告・納付が必要です。
- 提出の要否: 相続税の申告が必要な場合は、申告書類と合わせて遺産分割協議書の提出が必要です。
- 期限: 相続税の申告期限は、相続の開始を知った日(死亡日)の翌日から10ヶ月以内です。
- 注意点: この期限までに遺産分割協議書を作成できないと、税務上のペナルティを課される危険があるほか、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった相続税を減額できる有利な特例を適用できなくなる可能性があります。
3. 銀行等の金融機関:預貯金の解約・名義変更
被相続人の預貯金を払い戻しや名義変更する際、銀行等の金融機関に遺産分割協議書を提出します。
- 提出の要否: 遺産分割協議書がない場合でも、金融機関所定の「相続手続き依頼書」に相続人全員が署名・実印を押印すれば手続きできることもありますが、遺産分割協議書を提出すれば、手続きの手間を大幅に省くことができます。
- 期限: 預貯金の解約・名義変更に法律上の期限はありません。しかし、被相続人の死亡を金融機関が知ると口座が凍結されるため、速やかに手続きを行うことが推奨されます。
4. 証券会社:株式の名義変更
株式や投資信託を相続する場合、株式口座を開設している証券会社に遺産分割協議書の提出が必要です。
- 提出の要否: 株式の相続手続きをする際も、基本的に遺産分割協議書の提出が必要です。
- 期限: 株式の名義変更に法律上の期限はありません。しかし、手続きをしなければ株の売却や配当金の受け取りができなくなるため、早めに手続きを完了させることが推奨されます。
5. 運輸支局:自動車の名義変更
被相続人が所有していた自動車の名義変更手続きを行う際に、運輸支局に遺産分割協議書を提出します。
- 提出の要否: 査定額が100万円超の普通自動車の名義変更を行う際は、原則として遺産分割協議書が必要です。ただし、査定額が100万円以下の普通自動車や軽自動車の場合は、遺産分割協議書は不要な場合があり、「遺産分割協議成立申立書」などの簡易的な書類を使用できます。
- 期限: 自動車の名義変更について、特に期限は定められていません。ただし、自動車保険や車検などの問題があるため、速やかに手続きを行うことが推奨されます。

国土交通省HP(https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/content/000340978.pdf)参照
遺産分割協議書の作成・提出が不要なケース
以下の3つのケースでは、遺産分割協議書の作成や提出は不要です。
- 法定相続人が1人のみの場合 遺言書がない場合でも、法定相続人が1人しかいない場合は遺産分割協議を行う必要がないため、遺産分割協議書の作成は不要です。
- 有効な遺言書が残されている場合 すべての相続財産について引き継ぐ方が明確に指定されている有効な遺言書があり、その遺言書通りに遺産を承継する場合は、遺産分割協議自体が不要となり、遺産分割協議書も不要です。ただし、遺言書に記載されていない遺産が見つかった場合は、その財産について遺産分割協議が必要です。
- 法定相続分通りに遺産分割する場合 法定相続分通りに遺産分割を行う場合、手続き上は遺産分割協議書の提出は必要ありません。しかし、複数の相続人がいる場合は、後々のトラブル(言った・言わないなど)を避けるために作成しておくことが推奨されます。
遺産分割協議書を作成する際の重要な注意点
押印と証明について
遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、印鑑登録された実印を押す必要があります。また、その実印が本物であることを証明するため、相続人全員分の印鑑証明書の添付が必須となります。
提出は原則として原本
相続手続きで遺産分割協議書を提出する際原本の提出が求められます。(相続税申告は写しでも可)
遺産分割協議書を複数の提出先で使用する場合は、原本を提出した後、各提出先で「原本還付(げんぽんかんぷ)」の手続きを行うことで、原本を返却してもらい、使い回すことが可能です。原本還付の手続きは、遺産分割協議書のコピーに「原本と相違ありません」という旨を記載し、実印を押印して、原本と一緒に提出することで行います。
まとめ
遺産相続が開始した後、故人の葬儀の手配や親族への連絡などに追われ、精神的にも時間的にも余裕がないことが多いです。しかし、相続関連の手続きを怠るとペナルティを課される可能性もあるため、「時間がなかった」では済まされません。
遺産分割協議書は、不動産の相続登記(法務局)、相続税の申告(税務署)、預貯金や株式の名義変更(金融機関・証券会社)、自動車の名義変更(運輸支局)といった様々な手続きで必要とされます。
特に、相続税の申告が必要な場合は、相続開始から10ヶ月以内という厳格な期限がありますので、この期限に間に合うように遺産分割協議を完了させ、遺産分割協議書を作成する必要があります。相続財産調査や、遺産分割協議書の正確な作成には専門的な知識が必要で、時間がかかることが多いです。期限に迫られたり、手続きが複雑で素人には難しい作業が生じた場合、必要に応じて司法書士、税理士、弁護士などの専門家の利用を考えることが、スムーズな相続手続きを進めるための重要なポイントです。
記事監修税理士

税理士法人とおやま
税理士 遠山大地
